イベントリポート

女性活躍の解は「山形モデル」! ~ウーマノミクスシンポ in 山形

テレビドラマの再放送で再びブームに沸く「おしん」。たび重なる苦難にも負けず自ら道を切り開いたおしんは、キャリアウーマンの先駆中の先駆とも言える存在です。そのおしんのふるさと、山形県で、女性の活躍により経済の活性化を目指す「ウーマノミクス」の取り組みが花開こうとしています。2019年10月9日、山形市でシンポジウム「ウーマノミクスで経済活性化塾~ウーマノミクスで山形に新しい風をおこそう~」(主催:山形県、企画協力:日経ウーマノミクス・プロジェクト)を開催。パネルディスカッションでは「女性が生き生きと輝くには『山形モデル』が大事」との声も飛び出しました。具体的にはどんなモデルでしょう。参加者が時に真剣な眼差しを壇上に送り、時に笑いの渦に包まれたシンポの模様をリポートします。

「世界一優秀」な日本の女性を生かせるか、が成長のカギ

山形駅から車で約15分、市街地を抜けると見えてくるのが、今回の会場となる山形国際交流プラザ「山形ビッグウイング」。真っ青な秋晴れの下、街路樹は黄色に色づき始め、彼方には樹氷で有名な蔵王連峰が目に美しく映ります。会場には、女性活躍に関心が高い企業の関係者や行政のリーダーなど100人強が詰めかけました。

シンポは経済協力開発機構(OECD)東京センター所長の村上由美子さんによる基調講演「女性活躍推進、次のステージへ」でスタートしました。村上さんは、OECDの調査データを使い、高齢化の国際比較を分かりやすく解説しながら「日本の高齢化率は世界トップクラスですが、この状況は日本にとってチャンスだと気づいていますか?」と会場に問いかけます。

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100人を超える来場者が基調講演に聞き入った
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村上さんはOECDの豊富なデータを使って日本の高齢化の現状について解説

高齢化がチャンス? ――それを裏付けるご自身の母親のエピソードを披露してくれました。「普通の専業主婦だった」という村上さんの母親は、子育てが一段落した40代後半、地元・島根でドラッグストアを創業。20年間で年商200億円の企業に成長させたそうです。成功の秘けつは、日常生活の隅々にまで目を配る視点の細やかさにありました。起業当時、島根では都会に先んじて少子高齢化が進行。「これからは介護用おむつが売れるはず!」と、奥に置かれることが多かった商品を店の最も目立つ場所に積み重ねて販売する斬新な発想で、事業を成功に導きます。都会よりも先に課題を抱えた地方だからこそ、先行してチャンスをつかんだわけです。高齢化の負の側面が語られることが多い日本ですが「ピンチはチャンスになり得る」との指摘に参加者たちは大いにうなずいていました。

女性のポテンシャルの高さにも言及しました。「日本の成人女性の読解力と数的思考力の基礎学力は世界一」とのデータを示しながら「優秀な日本の女性がポテンシャルを発揮できる環境を整えれば、国内総生産(GDP)成長率は今の2倍にもなる」と力説。女性の能力を社会全体で生かしていくことが日本の成長のカギになると強調しました。

山形は女性の社会進出の"先進県"

次いで、吉村美栄子・山形県知事による主催者挨拶です。女性の約8割が就労し、共働き率が全国2位であるなど、山形県は実は女性の社会進出の"先進県"。「ウーマノミクスという言葉が好き」と話す吉村知事が知事就任後、取り組んできた様々な施策を紹介しました。

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地域の活力と競争力の向上には男女とも能力を発揮することが重要、と吉村知事

2016年には「やまがた女性活躍応援連携協議会」を発足。ワーク・ライフ・バランスの推進など女性のライフステージに合わせた研修やセミナー、出前講座を開催してきました。17年からはウーマノミクス・ネットワークフォーラムを立ち上げ、働く女性を対象にした異業種交流や意見交換会を実施。そして、19年の目玉は今回の「ウーマノミクスで経済活性化塾」です。

吉村知事は「女性の活躍が地方創生の切り札になる」との持論を展開。そのうえで、地域の活力と競争力を高めるためには「女性"が"ではなく、女性"も"であることが大切」と、男女ともに能力を発揮することの重要性を強調しました。男女が共に支え合い、豊かな社会をつくるために県として支援を惜しまない、と明言し「皆さん、共に頑張りましょう」と会場に呼びかけました。

女性の活躍は経営戦略そのもの

休憩をはさんで始まったパネルディスカッション。パネリストは、日立金属・執行役常務人事総務本部長の田宮直彦さん、大和証券グループ本社・常務執行役人事担当の白川香名さん、建築設計事務所、キャド・キャム(山形県鶴岡市)社長の齋藤士郎さんの3人で構成。コーディネーターは日本経済新聞・女性面編集長の中村奈都子が務めました。

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パネルディスカッションでは女性活躍のメリットと課題などを議論

父親が山形県出身という田宮さんは1982年に日立製作所に入社後、関連会社の人事担当などを経て、2018年から現職です。「日立金属は男性社員が圧倒的多数」と話すように、総合職に占める女性の割合は18年で4.6%、管理職は同1.5%という状況。ただ、ニッチ市場でシェアトップを狙う戦略を進める同社にとって「成長には社員の多様化が不可欠」。21年度に新卒総合職の女性採用比率を技術系で10%以上、事務系で40%以上にする方針で、女性活躍をテコに、さらなるイノベーションを起こす体制づくりを急いでいます。

白川さんは大和証券に入社後、マーケット部門や法人部門などを担当し、19年から人事担当役員を務めています。女性活躍の「優等生」として知られる同社において、初めての女性役員の誕生は約10年前。4人の女性が同時期に役員に就任するのは日本の産業界では珍しく、新聞記事に大きく取り上げられたそうです。現在はグループ全体で9人の女性役員が活躍しています。「今朝の新聞に『女性の視点に商機あり』と書かれていて、まさにその通りと思いました」と語る白川さん。「女性の活躍が経営戦略そのもの」と言うように、大和証券では年間約500人規模の新卒採用のうち約半数を女性としています。

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白川さんは大和証券グループ本社で19年から人事担当役員を務める

社員の約7割を女性が占め、管理職も男女3人ずつというのが地元企業のキャド・キャム。東京スカイツリーなど、高層ビルの床に関連する建築設計製図が主な業務です。女性を多く採用している理由は、女性のほうが男性より集中力があり、作業が速いため。齋藤さんが「男性はタバコを吸いに行ったり雑談したり、とにかく集中力がない。落ち着いて椅子に座っていられない生き物なんですよ・・・」と嘆くと、会場は笑いの渦に包まれました。

恐るべし山形モデル、「お互い様」精神で社内もハッピーに

議論は女性活躍のメリットと課題に移ります。白川さんは女性活用を進めるうちに「社内の風通しが良くなった」と言います。男性より女性のほうが自分の意見をはっきり言う傾向があり、男性も感化されて意見を言う雰囲気が出てきたそうです。田宮さんは、女性の活躍を業績向上につなげている「なでしこ銘柄」に日立金属が選ばれたことで「(採用時に)女性の応募者が増えた」ことを挙げました。17年度に初選定されたことで女性だけでなく、男性の応募者からの評価も高まり、「人材採用でいい効果が出ている」と満足気です。

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なでしこ銘柄に採用されたことで女性の応募者が増えたと田宮さん

もちろん、時には壁にぶつかります。齋藤さんは女性を管理職にしようとして断わられたエピソードを明かしてくれました。「責任が重いというのが理由でしたが、最後は社長である自分が責任を取る、顧客に謝るのは自分だからと説得しました」と振り返りました。その言葉を信じ、女性は管理職に就いたそうです。

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キャド・キャムの齋藤さんは女性管理職を積極的に増やしている

「子育てしやすい環境を社内で整えると、未婚者や子供のいない社員から反発が出ませんか」――。コーディネーターの中村編集長がこの質問をパネリストに投げかけたのをきっかけに、冒頭の「山形モデル」というキーワードが飛び出しました。

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女性活躍を進めることで企業風土が変わると中村編集長は指摘した

齋藤さんが「社内には子育て中の社員も独身社員もいますが『お互い様』という意識があるので争い事は全くないですね。都会と違って鶴岡の人たちは良い人ばかりなんですよ!」と冗談交じりに胸を張ると、会場内は大爆笑。

田宮さんは、子育てのために短時間勤務をすることで周囲に迷惑をかけているのではないかと心配する社員がいることを明かしてくれました。「子育てに限らず、親の介護などで将来100%の働きができなくなる可能性は誰にでもあります。社員同士がお互い様と思える『山形モデル』が広がれば、いろいろなことがうまくいきそうですね」と思いを述べました。山形モデル、恐るべしです――。

14時からスタートしたシンポジウムは、あっという間に3時間が経過。中村編集長が「時間がかかっても女性の活躍を進めることで企業風土が変わります。企業の中長期的な成長に向けて、ウーマノミクスを積極的に進めてください」と総括し、パネルディスカッションは幕を閉じました。シンポの終了後、あちらこちらで名刺交換の輪が広がったり、シンポの内容を振り返って楽しそうに話したりする風景が見られるなど、参加者は充実した時間を胸に会場を後にしたようでした。

この「ウーマノミクスで経済活性化塾」は今回のシンポジウムのほか、連続講座として計2回の研修が開催されました。その模様は別のレポートとして後日公開する予定です。

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