イベントリポート

広がる可能性と選択肢 「自分らしい生き方」をデザインしよう 熊本

2016年4月に大地震に襲われた熊本。地域経済は元気を取り戻していますが、その傷痕を修復する工事は今でも所々で続いています。その熊本を舞台に、日経ウーマノミクス・プロジェクトによる「女子学生のためのキャリアセミナー」が12月19日に開かれました。17年度は全国6カ所、岩手、石川、熊本、群馬、東京、岡山の順で同セミナーの開催を計画。震災の後、2年連続開催となった熊本では女子大生が自主的に参加し、働く女性を取り巻く環境の変化や社会で働く先輩女性たちのリアルな経験談に耳を傾けました。自分らしい生き方とキャリアについて考える有意義な機会となりました。

不確実性の時代、予測不能なことも受け入れる心構えを

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熊本城の天守閣は再建工事が急ピッチで進んでいた

地震で大きな被害を受けた熊本のシンボル「熊本城」は、損壊した天守閣が囲いで覆われ、再建工事が急ピッチで進んでいました。崩れた石垣など手付かずの部分も多いですが、1年前に比べると復旧への道を着実に歩んでいるのを実感します。セミナーの舞台となった熊本大学(熊本市)のキャンパスでも修繕工事が続いていました。明治時代に建てられ、小泉八雲や夏目漱石が教べんを取った赤レンガの建物「五校記念館」(冒頭の写真、国の重要文化財)などは工事の塀で囲われていました。それでもキャンパス内の学生たちは元気な様子です。「女子学生のためのキャリアセミナー in 熊本」(熊本大学キャリア支援課と共催)の会場には文系・理系の熊大生21人が集まりました。

セミナーではまず日本経済新聞の木村恭子編集委員が「広がる可能性と選択肢、働く女性の今」と題して講演しました。木村編集委員が就職したのは男女雇用機会均等法が施行された1986年です。その当時から現在までの働く女性を取り巻く環境の変化について自らの経験を踏まえて説明し、「日本は今、初めて女性活躍に本気になっている」と指摘しました。そのうえで「今の女性には昔に比べて選択肢がたくさんある。自分の人生を自分が決められる時代。逆に迷いも出やすいので、正しい選択をするために上手な情報活用を」と学生たちにアドバイスしました。具体的には、少し先を歩いている先輩女性の姿を参考にすることだそうです。「直接話を聞いたり、新聞などの記事を読んだりして、キャリアを歩むうえのリスクや難しさなどを把握すれば対策も取れる」といいます。

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「日本は今、初めて女性活躍に本気になっている」。基調講演をする日本経済新聞の木村恭子編集委員

AI(人工知能)など技術革新による時代の変化によって、キャリアについての考え方自体が変わっている点も木村編集委員は強調しました。かつてのキャリア教育は「将来目指したいゴールを明確にし、それに必要なスキルを身に付ける」という考えでしたが、今はAIの進化で多くの職業がなくなるといわれる不確実性の時代。だからこそ「明確にゴールを決めなくてもよく、予測不能なことを喜んで受け入れ、多くの機会をつかむようにオープンにしておくこと」がこれからのキャリアに必要だそうです。こうした能力を高めるためには「好奇心を持って新しい学習の機会を模索し続け、失敗にくじけずに努力し続けること、さらに柔軟に対応し、ポジティブに考え、リスクをとって行動することが大切」と解説しました。

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熊本大学の文系・理系の女子学生21人がセミナーに参加した

「迷いながらも、まずは行動してみて」

続いて熊大OG3人によるパネルディスカッションがありました。登壇したのは社会人12年目、東京海上日動火災保険・熊本支店営業課の松永菜穂子さん、同9年目、西部ガス・営業計画部の田坂真菜さん、熊大法科大学院を経て同5年目、平田機工・法務部の多田光子さんです。多田さんの学部卒業年次は田坂さんと同じ。木村編集委員がコーディネーターとなり、就職活動や仕事と私生活の両立など、学生が知りたいテーマについて3人に語ってもらいました。

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熊大OG3人が登壇したパネルディスカッション。学生時代の就職活動やこれまでのキャリアについて語った

松永さんは就職活動で東京海上日動の熊本、長崎、福岡、大阪の4カ所で地域採用(エリアコース社員)の面接を受け、働いている社員に魅力を感じたことが会社を選ぶ決め手となったと語りました。学生には「会社の名前ではなく、そこで働く人とたくさん話をして、働きやすい環境かどうかを探ってください」と助言しました。2年前に結婚し、現在は夫と二人暮らし。「出産しても一生働き続けたい。年金など将来の様々なリスクを考えると、働き続けることは必要」と考えています。仕事では営業成績を上げることがプレッシャーに感じることもありますが、週末はホットヨガなどで気持ちを切り替えてリフレッシュし、バランスを取っているそうです。

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東京海上日動火災保険の松永菜穂子さん。営業担当として保険代理店を支援する。趣味は旅行とホットヨガ

田坂さんは自らの就職活動で色々と考えすぎ、慎重になりすぎたことを後悔したと打ち明け、学生に「迷いながらでも、まずは行動してみて」と呼びかけました。西部ガスに決めたのは「総合職として自分の可能性を試せると思ったから」。学生時代は就職して仕事を続けていけるかと不安もあったそうですが、実際に働き始めると、入社4年目にプロジェクトメンバーに選ばれるなど会社から多くのチャンスを与えられ、働くことの面白さを知りました。今の目標は「田坂と一緒に仕事をすると面白いと言われる存在になること」。現在は独身ですが、子育てしながら働く先輩女性の背中を見て、自分が結婚・出産しても働き続けたいと話しました。

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西部ガスの田坂真菜さん。営業計画部に所属し、担当官庁への説明などを担当する。趣味は登山とヨガ

「就活は、自分が会社を選ぶという気持ちで」

多田さんは法曹界を目指していましたが、法学の知識を生かせる仕事ができればと企業就職にキャリアチェンジしました。ところが平田機工に入社すると役員秘書に。最初は「希望と違う」と悩んだそうですが、後に「基本的な事務仕事を学ぶ機会となり、多くの人と接して自らの幅を広げる経験になった」ことに気付きました。会社側が経験を積ませてくれたといいます。2年後に希望する法務部に異動。株主総会の準備・運営など当初は分からないことの対応に必死でしたが、徐々に上司や先輩社員に細かく確認して取り組むといった術を身に付け、やりがいが高まってきました。今は「社員からの法律相談に対処できるカウンセラーのような法務担当」を目指しています。

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平田機工の多田光子さん。法務部で契約書の検証や株主総会運営などを担当。趣味はゴルフとスポーツ観戦

これから就職活動を控えた学生たちに対し、3人の先輩女性はいずれも「会社に選ばれるという気持ちだと不安になったり、前のめりになって視野が狭くなったりする。自分のほうが働く会社を選ぶんだというぐらいの気持ちで就職活動に臨んでください」とメッセージを送りました。セミナー後の軽食を取りながらの交流会では、学生たちが先輩女性を取り囲んで、積極的に質問攻め。あっという間に予定の時間が過ぎていきました。

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軽食をとりながらの交流会。学生と社会人女性との会話は尽きず、予定時間を30分ほど延長した

セミナー・交流会に参加した学生からは「働く女性からリアルな話が聞けて、ためになった。会社の印象や、子育てしながら働き続けられる環境などを知ることができた」(文学部3年生)、「先輩方がバリバリ働きながらも、プライベートも充実させているのが印象的だった」(法学部3年生)、「面接では言葉の伝え方次第で相手の捉え方も変わると教わった。これから自分磨きをしていきたい」(工学部3年生)、「漠然としていたキャリアのことが見えてきた。これからを考えるいい機会になった」(理学部1年生)などの感想が聞かれました。学生たちは大学卒業後、自分らしい生き方をしていくためのヒントをつかんだようでした。

 

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