イベントリポート

可能性は無限大∞ ~ウーマノミクスでもっと輝くやまがたに~

山形県庁による「やまがたウーマノミクス・ネットワーク形成事業」の一環として「可能性は無限大∞ ~ウーマノミクスでもっと輝くやまがたに~」(主催:山形県子育て推進部、企画協力:日経ウーマノミクス・プロジェクト)と題したセミナーが11月26日、山形市で開催されました。前日までの雪はおさまったとはいえ、今にも雨が降り出しそうなどんよりとした曇り空。まだまだ日経ウーマノミクス・プロジェクトの認知度が低い東北地方ではありますが、ふたをあけてみると、多数の参加者がつめかけ60人超に。関係者一同、嬉しい驚きをおぼえつつのスタートとなりました。

山形女性はよく働いているが・・・

山形県は全国で3人しかいない女性知事である吉村美栄子さんのもと、「ウーマノミクス(女性の活躍による経済の活性化)」に着目してきたそうです。ただ、女性活躍推進の概念が既に広く浸透した都市部に比べ、山形県内ではまだこの考え方になじみの薄い人が多いとのこと。女性活躍分野の実績豊富な日経ウーマノミクス・プロジェクトと連携することで「県内の女性、その上司、同僚、配偶者などに女性パワーの潜在性をもっとよく理解してもらい地域経済を盛り上げたい」と本セミナーが企画されました。

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会場には開演前から多くの参加者がつめかけた

セミナーはまず、日本経済新聞の前女性面編集長、石塚由紀夫編集委員による講演でスタートしました。出身地の新潟の高校が当時、女子校から共学に変わったばかりで、数の上でも存在感でも「女性に圧倒され続けた」という経験が、新聞記者になって以来ほぼ一貫して働く女性や女性活躍を取材するきっかけになったとユーモア交じりに説明。過去に何度も短命に終わった「女性活躍推進ブーム」と違い、現在の女性活躍の流れは、少子高齢化で労働力人口が大幅に減少する時代を前に「危機感を強める企業側のニーズを受け長期的な動きになっている」と指摘しました。人口減少によるマイナス成長を回避するには「まだ労働市場に出ていない層が多い女性に働いていただけると日本は助かる」としたほか、家庭の消費の決定権を握ることが多い女性のニーズに応えるには「女性の独創的なアイデアによる商品・サービスの開発が不可欠」と強調しました。

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講演する石塚由紀夫編集委員。山形県の女性がよく働いていることを示すデータを次々と紹介した

山形県は女性活躍の波が押し寄せる前から働いている女性の比率が高く、しかも半数超は正社員(49歳までの女性の場合)といいます。出産など仕事を中断する女性が多いとカーブの谷が深くなる「M字カーブ」も浅いまま。全体的に「よく働いている山形女性」という像が浮かび上がります。ただ惜しむらくは、女性管理職比率や女性社長比率、男性の家事・育児時間が比較的低いこと。このあたりを改善すれば「真の〝女性活躍先進県″になれる」との話に来場者の期待も膨らみます。最後は、全国の活躍する女性の事例をいくつか紹介し、講演を終えました。

「周囲に応援される存在に」「ガラスのハイヒールは喜んで履こう」

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トークセッションには地元企業から玉谷製麺所の玉谷貴子さん、東京から明治安田生命保険の脇屋奈央子さんが登壇した

続くトークセッションでは、玉谷製麺所(山形県西川町)取締役営業部長の玉谷貴子さん、明治安田生命保険・公法人第一部の脇屋奈央子さんが登壇しました。まずはそれぞれの自己紹介。新潟県出身の玉谷さんは結婚を機に山形へ移り住んだ「新やまがた人」の斬新な発想で、パスタのデザインを工夫して賞をとったり、イタリアで新製品の開発に取り組んだりと精力的な活動について紹介しました。明治安田生命保険の脇屋さんは2014年から3年間在籍した人事部ダイバーシティ推進室での経験をもとに、女性活躍推進に向けた自社の課題を中心に話をしました。社員の年齢構成は「バブル期入社組が一番多く、それ以降の層が少ないため、将来会社を引っ張っていける層の育成が重要」と指摘。意欲ある女性社員を管理職に育成しやすくする制度や多様な働き方を支援する両立支援制度、管理職による「イクボス宣言」などを通じ、現在約21%の女性管理職比率を30%にするべく、様々な施策を通じ全社的に取り組んでいると説明しました。

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新潟県出身の玉谷さんは「新やまがた人」の発想で活躍中。「山形県は女性が活躍しやすい環境がある」

その後のフリートークは「女性であることの強みとマイナス面は?」との質問から。マイナス面について、玉谷さんは「女性であることを意識して働いているわけではなく、特に苦い経験はない」とした一方で、脇屋さんは「仕事の相手先を訪問した際、先方の男性がこちらの男性に対してだけ説明しようとする場面が少なからずあった」と話すと、会場で「そうそう」と言いたげにうなずく女性の姿も。「山形県の女性の働きやすさについて」という質問については、玉谷さんが「3世代同居率が全国トップ」という点を挙げ、子供を安心して任せられる環境が女性の活躍のしやすさにつながっていると指摘。東京で働く脇屋さんは「東京は3世代同居のケースは少ないし、保育園に入るのもたいへん。働きたくても働けない人が非常に多い。どこの県でも働きたい人が普通に働く環境が整備されれば〝女性活躍″という言葉がなくなるのでは?」と話しました。

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東京から駆けつけた脇屋さん。「保育園など働きたい人が普通に働けるための環境整備が欠かせない」

山形の企業、東京の企業というコントラストが随所に表れ、興味深いやりとりが多かったトークセッションはあっというまに終盤へ。「山形で女性が活躍するにはどうしたらいいかアドバイスを」との質問に対し「周りの皆さんからの応援が大事。応援してもらえれば今後も輝ける」(玉谷さん)、「出産までに仕事ができることを社内に知らしめる。(女性だからという理由で)ガラスのハイヒールを履かせてもらえるのなら喜んで履こう」(脇屋さん)と、それぞれ持論を展開してセッションは終了しました。

会場を移動して開かれた交流会には県産品のフルーツや軽食が用意され、多数の参加者が出席しました。最初に、県内企業のPRとして約5社がプレゼンテーションを担当。自社の女性活躍の取り組みやセミナーの感想を次々と話し、場を盛り上げました。最初は遠慮がちだった参加者も少しずつ打ち解け、今回のセミナーの狙いの一つであった「ネットワーキング」にいそしんだようで、あっという間にお開きの時間を迎えました。

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交流会では旬のラ・フランスなど山形県の特産品が振る舞われた

今回、筆者は生まれて初めて山形県を訪れましたが、山形新幹線の車窓から見える美しい景色に心を打たれました。福島県からトンネルをいくつか越えて山形県に入ると、一気に雪景色が広がり「別世界」を感じたものですが、女性活躍へのうねりは全国津々浦々、熱く、しっかりと根を張ろうとしていることが強く実感できた1日となりました。セミナーに参加した女性の皆さんが、自分のポテンシャルを余すことなく発揮し、実り多いキャリアを歩んでいくことを祈念しています。

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