イベントリポート

未来への視界を開く、女子学生のためのキャリアセミナー in 岩手

女性活躍推進が叫ばれ、女性の仕事を取り巻く環境には追い風が吹いています。とはいえ、これから社会に出ていく大学生にとっては未知の世界。働くことや仕事とプライベートの両立など将来のキャリアについては不安がいっぱいです。日経ウーマノミクス・プロジェクトはこうした学生たちに少しでも役に立ちたいと、2017年度も全国6カ所で「女子学生のためのキャリアセミナー」をツアーします。第1弾は11月1日、岩手県盛岡市にある岩手大学を舞台に、同大学と共同でセミナーを開催しました。

「仕事筋力」は20代から鍛えよう

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秋の空に映える岩手大キャンパス内の紅葉

緑豊かな岩手大のキャンパスには、宮沢賢治が6年間通ったという大正時代の学び舎「旧盛岡高等農林学校本館」が今も重要文化財として残っています。セミナーがあった11月1日は学内の紅葉が鮮やかに色づき、秋の空に美しく映えていました。宮沢賢治の後輩でもある大学1年生から3年生の学生を中心に約150人がセミナーに参加。大学の講義「キャリアを考える」などの一環にもなっていて、この日は女子と男子がほぼ半々です。男子学生にとっても今の時代の動きを知るよい機会でもあります。

「人はなぜ働くのか?」――日本経済新聞女性面の佐藤珠希編集長が学生たちにこう問いかけて最初の講演が始まりました。マイクを向けられた学生たちが「充実感を得るため」「幸せになるため」「お金を稼ぐため」と答えると、佐藤編集長は「そう、私たちは働くことで経済的に自立し、自由に生きるための力を得ることができます。ほかにも達成感ややりがい、自己肯定感など得られるものは多い」と働く意義を説明しました。

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「人はなぜ働くの?」。佐藤珠希女性面編集長の質問に答える岩手大学の学生

講演では今の日本の会社を取り巻く環境が「働き方改革」「ダイバーシティ」というキーワードのもと変わりつつある状況が伝えられました。そのうえで佐藤編集長は人材の多様性を本気で進める本物のダイバーシティ推進企業の見分け方を学生たちに伝授し、さらに「女性が活躍する会社は男性にとっても働きやすい会社です」と、参加した男女の学生がこれからの就職活動で企業を選ぶ際に役立つアドバイスをしました。

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岩手大のセミナー会場には約150人の学生が集まった

今の世の中は、将来を見通せない不確実な時代です。だからこそ佐藤編集長は「キャリア形成に正解はない。とにかく経験を積んで長く働き続けるための『仕事筋力』を20代から鍛えるしかない」と指摘します。技術革新などで時代環境はどんどん変わっていきます。「キャリアプランはがちがちに固めずに柔軟であることが大切。まずは目の前の仕事に全力で取り組み、チャンスが来たら挑戦できるように準備しておくこと」「周囲に一緒に仕事をしたいと思われる存在になることが仕事力に直結する。そのための人間力を鍛えること」「私生活の充実は仕事にも相乗効果を与える。仕事と私生活の両方の満足度を高めること」など、これからの時代のキャリア形成にとって大切なポイントの話に学生たちは真剣に耳を傾けていました。

周囲に助けられ、周囲を助けて、働き続ける

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企業で活躍する先輩女性3人によるパネルディスカッション。コーディネーターは佐藤女性面編集長(右)

続いて社会人によるパネルディスカッションが開かれました。登壇したのは東京海上日動火災保険の佐藤綾乃さん、ドラッグストアの薬王堂の渡邊春美さん、真空機器を開発製造する妙徳の千葉彩音さん。3人とも岩手県内に勤務しています。佐藤さんは入社12年目、渡邊さんは15年目でともに仕事と子育てを両立中です。結婚や出産などのライフイベントと仕事との関係は学生たちも不安に感じていること。2人は自らの経験談を語ってくれました。千葉さんは入社3年目の理系女子。新素材や新製品の開発を担当しています。昨年末にはNHKのテレビ番組「超絶 凄ワザ!」に若手技術者チームの一員として出演し、真空吸着対決で勝利しました。

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東京海上日動火災保険の佐藤綾乃さん。現在はグループ会社の東海日動パートナーズ東北盛岡支社に出向中

佐藤さんは地元・青森の短大を卒業し、保育士として4年間、神奈川県川崎市に勤務した後、地元にUターンし、転居を伴う転勤がないエリアコースの社員として東京海上日動に就職しました。その後、結婚・出産し、育児休業を取得して復職しましたが、間もなく夫が青森県から岩手県へ転勤となりました。東京海上日動には配偶者の転勤などに合わせて勤務地を異動する「Iターン制度」があります。佐藤さんはこの制度を活用して岩手県に転勤し、家族3人で一緒に暮らし続ける選択ができました。「子どもが3歳なので、今は時短勤務をしています。会社の色々な制度を活用すれば仕事は続けられます。周囲に助けていただいているので、あと2、3年したら逆に周りを助けられるようにしたい」と話しました。

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薬王堂の渡邊春美さんは岩手大教育学部卒。教員採用試験は受けずに民間企業を志望して就職活動をした

薬王堂の渡邊さんは岩手大のOGです。小学生2人の母ですが、下の子が保育園のときに病気で休みがちだったため、そのときは「仕事を続けるのは難しい」と考えたそうです。上司に相談したところ「子どもが休みがちなのは2年ぐらい。辛抱してその期間を乗り越えれば、その先に働ける期間はずっと長いから」と慰留され、やはり周囲のスタッフの協力を得ながら仕事を続けました。「感謝の気持ちを持ち、逆に私が周囲の力に何かなれないかを常に考えました。信頼の積み重ねが大切。誰かを助けることで、助けたいと思われる人材になるよう、自分で環境を作っていく必要があります」と学生たちに語りました。渡邊さんは専業主婦だった母親から「女性も働き続けたほうがいい」と言われ続けたそうです。

失敗を糧にすることができるか

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妙徳の千葉彩音さんは化学が専門。材料研究分野ではすでに社内の第一人者として活躍している

千葉さんは山形大工学部の卒業ですが「地元・岩手に帰ってモノづくりに携わりたい」と、学生時代は岩手に何度も足を運んで就職活動をしました。妙徳では開発部に所属し、職場は男性ばかりで女性は1人だけ。それだけに男性社員の意識改革が必要と感じることも時々ありますが、千葉さんが入ったことで徐々に変わってきたそうです。「自分が開発した製品が売れたときはうれしい」と仕事には強いやりがいを感じています。これまでに時間をかけて開発した製品が顧客に採用されずに悔しい思いをした経験もあります。しかし最近は「駄目だった結果もきちんと受け入れ、次の製品開発に生かそうと思えるようになった」と自らの変化を感じています。失敗を糧にすることで人は成長していきます。

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パネリストの話を興味深く聞き入る岩手大学の学生たち

講演とパネルディスカッションの後には、会場を移して登壇者と学生がざっくばらんに意見交換をする交流会を開きました。軽食をとりながら、セミナー内容に関することや会社のことなどを積極的に質問する学生の姿が目立ちました。参加した学生からは「先輩方が輝いて見え、私もそうなりたいと思いました。壁にぶつかったときにどう乗り越えたかいう話が心に残りました」(教育学部1年生)、「結婚・子育てと仕事の両立ができるのか不安だったが、実際に両立している先輩の話を聞いて不安が軽減されました」(農学部3年生)、「自分のやりたいことが見つからずに焦っていました。仕事のやりがいがすぐに見つかるのではないと聞いて少し気が楽になりました」(人文社会科学部1年生)といった感想が聞かれました。学生たちにとっては未来への視界が開けたセミナーとなったようでした。

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交流会に参加した学生たちは社会人の先輩たちとじっくり話をする機会を持てた

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