読者リポート

眠りの質を改善したい! 自分に合った睡眠時間を知ろう

仕事に、家庭に、プライベートにと、忙しい毎日を送る働き女子。だからでしょうか。寝ても疲れがとれないといった声をよく耳にします。少しでも彼女たちのお役に立ちたいと考えたカラダ研究室は、睡眠に関する調査・研究をしていただくインターンを募集しました。専門家へのヒアリング、各施設への訪問などを通じて正しい知識を吸収してもらい、読者リポーターとして「わたし目線」でまとめてもらいます。ほかの悩める働き女子たちの参考にもなるはずです。第1弾は「自分を知る」。睡眠の健康度を分析する自己診断システムを受けてもらい、その結果を携えて睡眠のスペシャリストに取材しました。

仕事中に一瞬意識がなくなる」「5時間睡眠徐々につらく」

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インターンとして参加した安藤裕子さん(左)と林美帆子さん

多数の応募の中から、インターンとして参加してもらったのは3人。安藤裕子さん(34)、西尾美穂さん(39)、林美帆子さん(29)です。皆さん睡眠に関する悩みを抱え、どうすれば改善するのか、ベストアンサーを求めています。

安藤さんは往復3時間かけて通勤しています。「乗り換えもあって、電車の中では寝られないんですよね」。車内で眠気を感じることもないとか。普段は午前0時ごろに横になり、起床は午前6時30分。夜中に何回か目を覚ましてしまうそうです。ベッドではスマホでドラマなどを流しており、「画面は見ないで、音だけ聞いています」。一番の悩みは仕事中に突然睡魔に襲われ、一瞬意識がなくなること。前日熟睡したと思っていても、ほんの短い間、"落ちている"と苦い顔です。休日は昼近くまでベッドの中にいることもあると話します。

西尾さんも夜中に何度も起きると打ち明けます。ゆっくり休んだ気がしなくて、日中は眠気があり何度もあくびが出るとか。布団の中で足がムズムズする感じもあります。「どうしてこうなるのか理解して、睡眠の質をよくしていきたいと考えています」

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パソコンのオンラインセルフ診断で睡眠障害をチェック

林さんは午前5時に目を覚まし、朝活をして出勤。就寝は午前0時から1時ですので、睡眠時間は4~5時間です。3年ほど前からこのリズムで、日中も眠気はないと言います。「でも最近はだんだんつらくなってきました。自分にあった睡眠時間を知りたいと思います」。もう一つ、寝返りを打たず、首などが凝ることもストレスだと打ち明けます。「額にスマホを乗せて寝たら、朝まで落ちませんでした」。その場にいた全員が「え~」と思わず声を上げました。

読リポの最初のミッションは睡眠医療・睡眠研究用プラットフォーム「PASM」のオンライン診断で、自分の状況を把握。そのうえでPASM開発チームのリーダーである国立精神・神経医療研究センターの三島和夫先生に疑問点や悩みをぶつけることです。

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朝型、夜型も分かる

仕事の都合で足を運べなかった西尾さんは次回以降の本格参戦です。安藤さんと林さんには顔合わせとして集まり、PASMにも取り組んでもらいました。

PASMは睡眠障害の診断支援といった医師や研究者向けのシステム以外に、一般公開されているセルフチェック診断機能を備えています。「夜、よく眠れませんか?」といった質問に答えていくと、睡眠障害の可能性を簡易判定します。朝型、夜型といったタイプ、睡眠障害の点数、可能性のある障害が表示され、点数が6点以上なら障害があると疑われます。パソコン画面をにらみながら入力。結果が出ると2人とも「よく分からない言葉もあります」と首をひねります。初日はここまでです。

個人差ある必要睡眠時間

後日、結果を携えて三島先生を訪ねました。仕事の都合で安藤さんは欠席。皆さんからもらった質問を林さんが代表して聞きました。

取材の冒頭、三島先生は「乳幼児から高齢者まで、どの時代にも睡眠障害はあります」と切り出しました。そのうえで「睡眠障害と睡眠習慣の問題を分けて考えなければいけません」と強調します。習慣の問題は、夜勤や授乳による睡眠不足など、環境が引き起こしています。環境を変えることで改善は可能。一方、睡眠時無呼吸症候群をはじめ約70ある睡眠障害は専門的な治療が必要です。「両方のグレーゾーンもあります」(三島先生)。自分で対策を施せるのか、専門家の知見が必要なのか。その目星をある程度つけてもらうために、PASMをつくりあげたそうです。

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睡眠時間や寝返りについて三島和夫先生(左)に質問する林さん

そして、林さんの質問が始まりました。ここからは彼女のレポートを見ましょう。

Q:セルフチェックで「概日リズム睡眠障害」という症状名が出てきました。聞いたのは初めてです。どのような病気で、なぜセルフチェックで該当したのでしょうか。


A:昼夜のサイクルと体内時計のリズムが合わずに、日常生活に支障をきたすような睡眠障害のことです。普通では考えられないような時間に起きたり、眠ってしまったりする人に疑われる症状を指します。例えば体内時計が強い夜型の人は午前0時を過ぎてもなかなか寝付けず、でも出社時刻は決まっているため睡眠不足になりがちです。加えて、日中の眠気が強いとこのような診断が出てくることがあります。


Q:睡眠時間について「7.5時間がベスト」「8時間以上寝ると危険」など諸説あります。「体質が違うのだから、適切な睡眠時間も人それぞれ違うはず」と個人的には思いますが、「自分にあった適切な睡眠時間」をどう調べたらよいのかが分かりません。


A:林さんの見方はおおむね正解で、必要睡眠の長さには個人差があり、一番長い人と一番短い人とでは4時間ほどの差があります。個人の必要睡眠時間を調べるには特殊な施設が必要で簡単ではありませんが、心身の負担となるような睡眠不足を抱えているかチェックする方法はあります。休日など早起きする必要がない日に、目覚ましのアラームをつけず、カーテンを閉め切って眠りにつくと良いでしょう。もし平日の起床時間よりも3時間以上寝坊するようであれば、要注意です。

就寝中のマスクはOK、靴下は眠りを妨げることも

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三島先生は睡眠障害と睡眠習慣の問題は分ける必要があると強調

安藤さん、西尾さんの質問については、誰もが不思議に思う点について、回答を林さんにまとめてもらいました。

Q:寝る前に靴下を履いたり、マスクをつけたりしても問題ないのでしょうか?


A:人は眠りに付く1時間前から、手のひらや足裏がどんどん熱くなります。体内の熱を逃がし、体温がスムーズに下がることが、質の良い睡眠をとるために必要です。手足の末端を覆ってしまうと、熱を逃がせなくなり、結果として眠りにつきにくくなったり、睡眠が浅くなったりしてしまいます。ただ、熱を逃がす手足の毛細血管が閉まって、放熱しにくい末端冷え性の方もいます。この症状があれば、眠る前に布団を暖めるなどして熱を逃がしやすくするのがいいですね。マスクは自分が着けていて眠りにつきやすいのならば、着けても構いません。口呼吸気味で喉が乾燥しやすい人は楽になるかもしれません。


Q:朝型、夜型などのタイプは変えられるのでしょうか?


A:基本的に変わりません。体内時計の周期、つまりその人にとっての1日の長さは平均すると24時間より長く、自由に毎日を過ごしていると少しずつ体内時計が遅れて寝起きの時間が遅くなります。それでは困るので、私たちは日光や家庭照明を利用して体内時計の時刻を調節しています。人間の体内時計は朝起きてから午後3時ぐらいまでの光、特に青色光(ブルーライト)を浴びると遅れていた時刻が巻き戻され(=進み)、夕方から深夜にかけて光を浴びると時刻が遅れます。


 夜型でなかなか寝付けないという人の場合、夜間に強い光を浴びるのは避けた方が良いでしょう。暖色系(だいだい色など)の照明に変えると、体内時計への影響はほとんどなくなります。ちなみに、画面が小さいスマホから出るブルーライトが体内時計に与える影響はさほど大きくありませんが、交流サイト(SNS)などインタラクティブなツールを使うと目が覚めてしまいます。


 朝型、夜型というのは、体内時計の長短が深く関わっています。体内時計の周期が長い人は夜型傾向が強くなり、中には早寝早起きがとても大変という方もいます。朝型、夜型も遺伝子の影響を受ける体質の一つなんです。朝型勤務など早寝早起きが推奨される風潮がありますが、体質的に厳しい人がいることも理解していただきたいと思います。自分は夜型と思っていても、早朝に出なければいけないような環境になったら起きられるようになったという人がいます。そのような人は真の夜型ではなかったということです。

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必要な睡眠時間は人によって異なると聞き、林さんは「ふに落ちました」

安藤さんは先生のコメントを後日読み、海外出張先でリポートをまとめてくれました。

 私が自分の睡眠で不思議に思っていたことは3つ。1)昼間にパタっと寝てしまうこと、2)エナジードリンクがお守りになりつつあること、3)ベッドの中ではスマホで動画を流さないと寝られない体質になっていることです。


 昼間意識がなくなることは、不眠のほか、夜中に寝ていても日中に眠くなってしまう「過眠症」もありえるそうです。突然眠り込んだりする「ナルコレプシー」という特殊な病気もあると聞きました。私はそこまでではないですが、人と話をしていた最中に一瞬寝てしまい、相手に驚かれたことがあるので少し気になります。それに、6時間の睡眠時間は私には不足しているようです。


 急な眠気があるので、仕事中にはエナジードリンクを1日1本飲んでいます。ドリンクに含まれるカフェインはパフォーマンスを上げ、運転事故の防止効果も証明されているとのお話でしたが、依存にならないようにうまく利用していきたいと思いました。


 最後の寝る前のスマホはブルーライト自身が睡眠に与える影響は軽微だが、SNSなどインタラクティブなコミュニケーションツールを使って興奮することが眠りから遠ざかってしまうとの指摘がありました。さらに、これをしないと眠れないという「入眠儀式」があるほど、寝床についてから覚醒するということです。習慣化された儀式を少しずつ減らしていければと考えています。

必要な睡眠時間は年齢とともに短くなる

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林さんは熱心にメモを取った

三島先生からはほかにも興味深い話を聞けました。「一般論としていうなら、年齢とともに必要な睡眠時間は短くなり、10年で10数分短縮される」「日本人の大人の10%は慢性不眠になっている」「深い眠り(ノンレム睡眠)があれば体調が維持されるわけではない。浅い眠り(レム睡眠)も組み合わせた構成が重要になる」などなど。

安藤さんは「時差1時間の海外出張でしたが、普段と同じ時間で起きるように調整してみました。継続しつつほかにも実践できることを少しずつこなして、リポートしたいと思います」と結んでくれました。林さんも「今まで自分のことを短い睡眠ですむショートスリーパーだと信じて疑わなかったのですが、お話を聞いて違うかもしれないと感じました。自分に最適な睡眠時間を見極めるために、アラームをつけずに、部屋を真っ暗にして眠ってみようと思います!」とまとめてくれました。

睡眠を多角的に研究するインターンの活躍に今後もご期待ください。

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