頼れる「助っ人」になる――地域の枠を超えて新天地へ
東京海上日動火災保険に勤める西岡摩有子さん(29)には、大切な1枚の写真がある。2013年の夏、赴任先の北海道損害サービス部室蘭損害サービスセンターの仲間と一緒に、北海道登別市の夏を彩る「登別地獄まつり」の鬼おどりコンテストに出場したときのスナップだ。
一緒に写っているのは、職場の先輩だった佐藤勉さん(64)。関西損害サービス第二部堺損害サービス課から室蘭に着任して間もない時期に、佐藤さんたちと登別温泉を訪ね、鬼にふんして浴衣姿で温泉街を踊りながら練り歩いた。コンテストに入賞し、喜びを分かち合いながら新しい職場の仲間との距離が一気に縮まった。「室蘭に引っ越し、室蘭センターの一員として仕事をしてくれるのがうれしい」。佐藤さんたちから自然にそう言ってもらえるような関係を築くことができた。
室蘭に赴任した当初は少しプレッシャーを感じていた。本人の同意なしでは、転居を伴う転勤のない地域型従業員を対象に、東京海上日動が12年度にスタートさせた「短期JOBリクエスト制度(お役に立ちたい)」を活用して、新しい経験を積みたいと思い立ち、自ら希望して室蘭に着任した。それだけに職場の役に立つ働き方をしたいという思いが強かったのだ。
関西から北海道に活躍の場が変わっても、損害サービスの仕事を担える自信はあった。事故に見舞われた自動車保険の契約者に電話で連絡して、損害の状況や事故の原因などの確認、事故をめぐる相手方との示談交渉までを担う。突然の事故で不安になっている契約者に誠意を持って対応し、保険を通じて安心を届けるという仕事の重みは北海道でも同じだ。
欠員が出て、業務が滞る恐れがあった室蘭損害サービスセンターに即戦力として迎え入れられると、堺損害サービス課に勤務していたときよりも幅広い仕事をこなすことになった。職場は保険金を査定する鑑定人を含めても、9人。保険金支払いが完了した後の書類チェックなど、メンバー間で分業できていた前の職場では求められなかった業務も、担うこととなった。
■室蘭で得た財産
「何でも自分でこなす」。積極的に仕事に関わっていくと、周囲からも頼られるようになる。「ちょっと、このシステムの操作方法を教えてほしい」。こんな依頼にも応じているうちに、自然と仲間のために動く自分に気づくようになった。そうすることで、組織全体の動きが見えるようになってきた。
13年7月から14年3月まで在籍した室蘭損害サービスセンターで得た財産。それは職場の仲間が何か困っていることはないかと思いをめぐらせる想像力が豊かになったことだ。それが事故を起こして不安になっている契約者の気持ちに寄り添って損害サービスを提供するスキルの向上にもつながっていった。おのずと示談交渉などでも「お手数をかけましたね」と感謝される頻度が高まった。
西岡さんが室蘭に赴任するきっかけとなった「お役に立ちたい」の制度は、「地域型従業員」が原則1年間、近隣の課支社と距離が離れているために人事異動で人員を手配することが難しいなどの理由から欠員が生じた職場に、自ら応募し赴任する仕組みだ。12年からの約4年間で45人が地域の枠組みを超えた新しい働き方に挑戦しているが、関西の損害サービス部門では、西岡さんが初めての制度活用者だった。
室蘭か、田辺か――。12年秋、西岡さんは社内イントラネットの「お役に立ちたい」の募集を見ながら、欠員が生じる職場の情報を知り、心が動いた。
和歌山県田辺市にある田辺損害サービスセンターを希望することも考えたが、生まれて初めて関西を離れ、北海道に居を移すことを決意した。以前、雪害に伴う自動車事故が頻発し、人手が不足していた旭川損害サービス課を応援するため、1週間の北海道出張を経験していた。これも北海道で働きたいと考えるようになったきっかけだ。
この時期は父をがんで失い、自分自身の生き方を見つめなおす転機でもあった。「祖父母に新しいことに挑戦して活躍する自分の姿を見せて安心させたい」という思いもあったのだ。
■周囲に貢献する意識
自分の成長を実感できる日々が続いた室蘭での赴任期間が過ぎ、関西損害サービス第二部に戻った。現在所属する損害サービス第三課でもさらに自分自身を高めていく挑戦が続く。
14年4月には主事に昇級し、若手人材の職場での悩みに耳を傾けながら仕事を助け、職場全体を円滑にするKP(キーパーソン)業務もこなす。電話対応業務でトラブルを抱えている若手がいれば、早急に引き継ぎ、解決に導く。
「新しいことに前向きにチャレンジする意識や周囲に貢献する意識が強い」。損害サービス第三課の八幡英明課長(39)は西岡さんをこう評価する。「物損の損害サービス対応だけではなく、おけがの対応にもチャレンジし、お客様へより一層の安心を提供していってほしい」と期待感も大きい。
室蘭勤務時代の冬、普段なら自宅から徒歩15分ほどで着く職場まで、長靴を履いて雪道を30分かけて歩いたのも、今では懐かしい思い出だ。室蘭の仲間、札幌の北海道損害サービス部の上司、住んでいたマンションのオーナー夫妻――。当時の写真を見ながら、人生の宝物のように思える室蘭時代に出会った人たちの顔を思い出すたびに、新しい挑戦をする自分を信じることができる。