日経ウーマノミクスプロジェクト 組織に新たな風を吹き込む女性たち。しなやかな働き方に輝く社会へのヒントが詰まっている。 日経ウーマノミクスプロジェクト 組織に新たな風を吹き込む女性たち。しなやかな働き方に輝く社会へのヒントが詰まっている。

手探りで進む成長の道

日本能率協会の長沼さん
前例のない仕組みをつくるなか、自身の積極的な面が出てきたという

 「前例のない仕組みをつくるのは手探りの連続でした」――。一般社団法人日本能率協会に所属する長沼明子さん(36)はこう振り返る。

 現在、KAIKAプロジェクト室に所属する長沼さんは2010年に企業の能力開発活動を表彰する制度の見直しを担当することになった。その際、「人材育成は企業経営の根幹にかかわる話だから経営戦略と切り離せない」という議論になり、経営戦略や社会とのつながりの視点で表彰のあり方を考えることになった。

 多くの有識者、企業関係者の意見を聞いていくなか、「個の成長」「組織の活性化」「組織の社会性(広がり)」の3つをキーワードに、それらを実現するための企業の取り組みを評価していく、というコンセプトが固まってきた。

 優れた企業は個人や組織が積極的に外部とつながり、高い感度を持ちながら社会の変化にいち早く対応していく。自前主義にこだわらず、内外の知恵を取り込む企業を独自に「開放型組織」と定義。外部の知恵やノウハウを取り込みながら企業が新たな事業やサービスなどの花を咲かせる(開花)というイメージを基に新たな表彰制度とそれに関連する活動をKAIKAと名づけた。11年のことだ。

■プロジェクトの専任に

日本能率協会の長沼さんと室長の山崎さん
KAIKAプロジェクトは室長の山崎さんら少数精鋭で立ち上げた

 13年には上司で同プロジェクトの室長となった山崎賢司さん(41)とともに専従で当たることとなった。サントリーの「やってみなはれ」ではないが、日本能率協会も現場の「やりたい」という前向きな希望は聞き入れてもらいやすい組織だという。その代わり、「企画・立案、営業、運営まで全てチームメンバーで受け持つことになった」(長沼さん)といい、まさに手づくりで立ち上げた。

 「自分から動かないと何も始まらない」と長沼さん。もともと人付き合いは得意な方ではなかったが、企業関係者など様々な人と交流するうちに徐々に積極的な面が出てきたと振り返る。今では1日2件程度、経営コンサルタントや企業関係者など外部の人と会うことが日常になっている。

 以前勤めていた出版社ではデスクワークを中心としながら、1冊の教科書をつくり上げる日々だった。予定をきっちり管理しながら仕事を進めていくのが当然だったが、新たな経営のあり方を模索するKAIKAプロジェクトは先の見えないことや予定通りに物事が進まないことも少なくない。

 長沼さんは好きな山登りに例えて「ゴールの見えない道を一歩一歩進む感じ」と語る。かつては先が見えないことに不安を感じることもあったが、それが当たり前になってきた今ではさほど気にならなくなった。

■魅力的な女性との交流も

 KAIKAプロジェクトは企業に対する表彰制度を柱の1つにしている。表彰にエントリーした企業の人・組織づくりと価値創造について有識者を中心とする審査委員会が評価する。評価する際に実際に企業のヒアリングに審査員と一緒に訪問するのも長沼さんの仕事だ。

 さらにセミナーや交流会で企業同士を結びつける「Lab(ラボ)」活動や、企業の課題解決のためのAction支援活動も手がけている。

 ラボでは固定メンバーによる研究会や、カフェスペースでの交流会活動を行っている。例えば、外部と連携して研究開発に取り組むオープンイノベーションを促進しているゲストを招いて議論した。その会では、新規事業の創出に取り組む企業の参加が多く、個々の課題や悩みを語り合った。また、テレワークなどこれからの働き方をテーマに交流会を企画したこともある。新たな気づきや発見を求めて人が集まる。

 集まりには魅力的な女性も参加している。「それぞれ自分とは違うタイプだが、仕事もそれ以外も充実させている方が多い」と刺激を受けている。彼女たちの姿を見ながら、KAIKAプロジェクトを大きく育てつつ、社会貢献活動にも取り組む自らの姿を思い描くこともある。今後の課題はKAIKAでの交流を通じて新しい事業を生み出していくことだと考えている。

■仕事に比重、反省も

日本能率協会の長沼さん
仕事が楽しい半面、プライベートとのバランスを取るのが少し悩みだ

 仕事が楽しいと感じることが多いという長沼さん。先の見えない山道を一歩一歩登りながら、成長を実感する日々ではあるが、仕事関係の交流が増える分、「仕事の付き合いと個人のお付き合いの境界が曖昧になってきた」と苦笑する。趣味の山登りも最近はご無沙汰気味。ワークライフバランスでいうと、やや仕事の比重が大きくなってきたかなと反省もしている。

KAIKAプロジェクトとは

 「開花・開化」を語源とし、「個の成長、組織の活性化、組織の社会性(関係性)」を同時に満たす運動を指す造語。「Awards」「Lab」「Action」の3つの活動を展開し、次世代の組織のあり方を考え、提言している。今年度のAwardsの応募はすでに終了。11月に今年度の受賞企業が決まり、16年1月に表彰する予定だ。過去に竹中工務店や三井住友海上火災保険などが受賞している。

KAIKAプロジェクト モデル図

個人や組織のつながりが内外に広がり、関わる人がわくわくしながら参画し、組織が活性化するほか、ノウハウが蓄積されていく状態を示す

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