日経ウーマノミクスプロジェクト 組織に新たな風を吹き込む女性たち。しなやかな働き方に輝く社会へのヒントが詰まっている。 日経ウーマノミクスプロジェクト 組織に新たな風を吹き込む女性たち。しなやかな働き方に輝く社会へのヒントが詰まっている。

「失敗して気付く」重ねながら一歩一歩

入社2年目の失敗が、立川さんの仕事に対する考え方を変えた

 「あなたは『分かりません』ですむかもしれないけれど、現場の私たちは授業の一瞬、一瞬が勝負なの」。ECCの法人渉外事業部でゼネラルマネジャーを務める立川賀由里さんは入社2年目のとき、幼稚園などで英語教室を担当する先生からこう叱責された。授業のカリキュラム改定内容を先生方に説明する研修会。立川さんは改定の意味を一部理解できないまま臨んでしまうと案の定、先生にその部分の説明を求められたのだ。

 「何でとっさに『分かりません』なんていう言葉が出たのか、今思い出しても恥ずかしい。でも、あの経験がなければ、この仕事は長く続いてなかったかもしれない」と振り返る。今ではECCの法人営業の現場で活躍する立川さんの、仕事に対する考え方が一変した瞬間だった。

 立川さんは決して、幼児教育をやりたくてECCに入社したわけではない。何となく、大学院を修了したら高校の英語教師になって、大好きなソフトボールの指導もしたいと考えていた。しかし夢はかなわなかった。「どこかに就職しなければ」と焦るが、就職難の時代。新聞で見つけたECCの採用広告を見て、迷った揚げ句に申し込んだ。

■「先生方の言葉が導いてくれた」

急ピッチで市場が拡大する東京での経験がマネジャーとして良い経験になった

 最初の配属はジュニア事業部幼児教育推進センターの名古屋センター。ECCのカリキュラムで英語を教える先生の採用や研修を担当する部署だ。最初の1年は先輩の指示に、ただ従うだけの日々。その先輩が結婚して退職することになり、いきなり独り立ちを迫られる。冒頭の「事件」は、独り立ちして間もなく起きた。

 「どうしたら先生方の役に立てるのか」。立川さんは必死に考えた。同僚には、子どもたちが飽きない表現豊かなレッスンを自分で作り、先生方に伝えることができるスペシャリストがたくさんいた。しかし立川さんはそれが苦手だった。上司のアドバイスも聞き、出した結論は「まずは先生方とのコミュニケーションを深めること」。心が決まると立川さんは次の日から、先生方のもとに足しげく通うようになった。

 最初は勉強不足を叱られることもあったが、先生は教育者として立川さんと向き合っていたのだろう。数カ月続けると徐々に、それぞれの先生が、それぞれの悩みや不安を抱えていることを教えてくれるようになる。それに全力で応える日々。頼りない点もあっただろうが、多くの先生が立川さんの頑張りを認めてくれるようになった。最悪の状況を立川さんは乗り越えたのだ。「先生方の言葉が、自分を導いてくれた」と振り返る。

 入社4年目で名古屋センター長になり、部下を指導する立場になる。最初は部下と衝突することもあった。そんなとき、立川さんは入社2年目の失敗を振り返り、部下と本音で話し合うようにしたという。職場の雰囲気は少しずつだが、好転していった。

 軌道に乗ったころ、急ピッチで幼児教育の需要が拡大していた東京センターから応援要請が入るようになった。初めての東京での仕事に立川さんは「スピード感が全く違う」と圧倒される。「週に1度の出張では中途半端で何もできない。東京に転勤させてほしい」。上司に直訴し、東京センター長となる。入社9年目のことだった。

 名古屋ではセンター長として全て自分で把握して前に進める仕事の仕方だったが、それでは市場の変化についていけない。実際に先生もスタッフも、自分で判断する自立したタイプが多かった。立川さんは任せるところは現場に任せ、全体を俯瞰(ふかん)するマネジメントの重要性を学んだ。

 その後、大阪に異動するとセンター長から幼児教育推進課のマネジャーに昇格する。組織の運営は責任も重くやりがいもあったが、「先生方と直接お話する機会がめっきり減り、寂しかった」

■事業拡大期にこそ立ち返る建学の理念

豊中文化幼稚園では松田園長(左端)らと幼児教育の将来について話し合った

 そんな立川さんに転機が訪れる。幼稚園や保育園向けの事業を担当する幼児教育推進課と、企業や大学の市場を開拓する法人事業課を統合し、法人営業を統括する「法人渉外事業部」を発足させる計画が浮上。立ち上げメンバーに加わった立川さんは、2010年の発足とともに同部のマネジャー職に就く。幼児教育だけでなく、企業や大学、官公庁などを訪問して英語教育事業の新しい可能性を探る役割を担ったのだ。

 企業や大学の担当者に会えば「グローバル化への危機感というか、切迫感がひしひしと伝わってくる」。国としての英語教育の将来像を描く担当者と対話すれば「幼児教育で培ってきたECCの知見が生かせる分野がまだまだあることに気付く」。出会い一つ一つが立川さんには刺激だ。

 最近訪問した創立70年の豊中文化幼稚園(大阪府豊中市)では、松田安紀子園長らの意見を聞いた。建学理念に「世界の中で活躍する国際人の育成」を掲げた同園は、実に30年近く前からECCの英語教育を採用。「ECCとは、英語を通じて人を育てたいとの思いが完全に一致している」という。園児だけでなくお父さんやお母さんも心から楽しんで参加する様子を振り返り、松田園長は「ホームステイ制度など、ECCとは家族と一体となった英語教育を実現していきたい」と話した。

 松田園長の話を聞きながら、立川さんは園と同じく「国際人の育成」を掲げたECCの建学の理念を思い返していた。理念を先生方とともに守り抜いてきたから、今のECCがある。「法人営業を強化する上でも、この理念が礎にあることを決して忘れはならない」。立川さんは思いを新たにして、園を後にした。

 現場の声をもとに、新しいビジネスの芽を探る日々。入社2年目の失敗以来、現場で得る「気付き」を大切にしてきた立川さんにとって恐らく、今の役割は「天職」だ。

 将来の夢を聞いてみた。答えは「私たちが見つけたビジネスの芽を、若い人に任せ、花を咲かせてくれることでしょうか」

 現場を歩き、失敗しては大切な何かに気付く。それが立川さんにとって、夢への一番の近道なのかもしれない。

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